日本からアメリカを目指す外国人――背景と現実、そして定着への課題

日本からアメリカを目指す外国人たち――その背景と現実

日本にやってくる外国人の中には、日本を最終目的地とせず、次のステップとしてアメリカやカナダ、オーストラリアなど別の国を視野に入れる人が一定数存在します。その中でも「アメリカへ行きたい」という志向は根強く、国際調査においても米国は渡航希望国ランキングで首位を維持しています。ガロップの国際世論調査によれば、2007年以降、一貫してアメリカは「行きたい国」のトップに位置し、カナダ、オーストラリアがそれに続きます。

ではなぜ、日本にいる外国人の一部はアメリカを次の目標に据えるのでしょうか。理由は一言で言えば「経済的機会」と「国際的なキャリアの広がり」に集約されます。アメリカは高賃金の求人が多く、英語圏という利点からグローバルな転職市場で有利に働く経歴が得られます。さらに多民族社会として移民コミュニティが厚く、外国人にとって生活のハードルが比較的低いという魅力もあります。

しかし、その道は決して容易ではありません。特に就労ビザ(H-1B)の取得は年ごとの上限があり、近年は選抜率が3〜4割程度と狭き門です。ビザ審査に通らなければ滞在を延長できないため、「アメリカ挑戦後に別の国へ流れる」という現象も起こっています。この現実を踏まえ、日本を経由地とする移動には計画性が求められます。

日本は地理的にアジアから近く、安全で安定した社会、比較的取得しやすい就労・留学ビザなどの条件から、「まず日本で資金・職歴・資格を蓄え、その後に英語圏を目指す」という戦略が成立しやすい国です。この流れは、国際移民研究でいう「ステップストーン型移民(secondary migration)」に該当し、Migration Policy Instituteなどでもその存在が確認されています。

滞在背景別に見る「次はアメリカ」志向の違い

日本に来ている外国人は、その在留資格や目的によってアメリカ志向の現実味や動機が異なります。技能実習、特定技能、EPA看護師、留学生、高度人材など、立場ごとに分けてみると傾向がはっきりします。

技能実習・特定技能の人々は、日本での滞在を通じて職歴や技能を身につけ、より賃金水準の高い国へ移動することを検討する場合があります。OECDが引用する調査によると、技能実習生のうち「1年以内に母国へ帰国、または他国へ移動する」と答えた割合は約5〜6%と少数派ですが、長期的には「5年〜永住」を希望する人が約半数を占めています。短期間で日本を離れてアメリカへ行く人は多くはありませんが、中長期的な計画としては選択肢の一つになっています。ただし、介護や製造など中位技能職ではアメリカの就労ビザ枠が限られており、現実的にはカナダやオーストラリアの方が永住へのルートが明確な場合もあります。

EPA(経済連携協定)看護師や介護福祉士の場合、日本語試験のハードルや勤務形態への適応が課題となり、国家試験合格後でも離職・帰国する人が少なくありません。ある調査では、合格後もインドネシア人の67%、フィリピン人の42%、ベトナム人の58%が日本を離れており、その行き先は母国だけでなく、英語圏の第三国も含まれます。医療分野では米国志向も見られますが、ビザ条件の厳しさから、カナダやオーストラリアの制度を選ぶ人が多いのが実情です。

留学生や高度人材層では、アメリカ志向が比較的強く、大学院進学や研究職、IT職を狙うケースが目立ちます。日本の大学や大学院を経て米国の大学院へ進学し、OPT(Optional Practical Training)やH-1Bビザで就職するルートや、日系企業からのアメリカ駐在(L-1ビザ)などが代表的です。ただし、H-1Bの抽選に漏れた場合は、カナダなど他の英語圏へシフトする動きも見られます。

アメリカ行きの魅力と障害

アメリカは経済規模、雇用機会、英語圏としての価値、移民コミュニティの多様性など、多くの面で魅力的です。特にIT、医療、研究などの分野では高い報酬と先端的な環境が用意されており、「キャリアの頂点」を目指す人にとっては非常に大きな引力があります。加えて、多民族社会としての包容力や、生活スタイルの自由度も評価されています。

しかし、その道のりは制度面で大きな障害があります。H-1Bビザは上限が定められており、申請者の数が枠を大きく上回るため、抽選制で選抜されます。選抜率は年度によって変動しますが、近年は30〜40%程度です。また、ビザが認められても永住権(グリーンカード)までのプロセスは長期化しがちで、就労中にビザ更新やスポンサー企業の変更が難しいという制約もあります。さらに、医療費の高さや治安の問題、銃社会への不安も、渡航をためらわせる要因になります。

こうした現実的な壁があるため、同じ英語圏でも、より永住への道が明確なカナダやオーストラリアへ方向転換する人も少なくありません。特にカナダは介護人材や特定職種に向けた永住パイロットプログラムを拡充しており、日本での経験を直接評価してくれる制度が整っています。このため、日本で数年働いた後、カナダへ渡るという流れは実務的に成立しやすいと言えます。

日本側の課題と定着へのヒント

日本が外国人材を受け入れる側として「なぜ定着しないのか」を考えると、アメリカや他国に流れる理由は単純ではありません。賃金やビザ制度だけでなく、職場文化や生活環境、将来設計の見通しといった要素が重なっています。

技能実習や特定技能では、初年度の生活・職場適応支援が特に重要です。言語面や住環境のサポート、家族帯同の可能性を示すことが、長期定着率の向上につながります。また、将来のキャリアパスを早い段階で見える化することも有効です。例えば、育成就労から特定技能、さらには永住や無期限在留へのルート、または社内での海外駐在の可能性などを明確に示すことで、日本に残る魅力を高められます。

さらに、日本が競合国に比べて弱い点を理解し、職種ごとに戦略を立てる必要があります。ITや研究職では米国の制度の難しさを踏まえても魅力を残せる条件を整え、介護や製造ではカナダやオーストラリアの制度に対抗できる要素を作ることが求められます。これは、単なる待遇改善にとどまらず、生活の質や家族支援、コミュニティ形成など、包括的な受け入れ環境の整備が必要ということです。

結局のところ、日本が外国人にとって「次のステップへの経由地」ではなく「最終目的地」になれるかどうかは、制度面だけでなく、社会全体の意識や環境整備にかかっています。アメリカ行きの夢は多くの外国人にとって魅力的ですが、それと同じくらい日本にも魅力的な未来像を描けるような仕組みづくりが不可欠です。

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