外国人観光客への徴収金をめぐる世界と日本の現実
近年、観光客に対して追加の負担を求める制度は世界的に広がりを見せています。観光が都市や国の経済を支える大きな要素となる一方で、訪問者の急増が生活環境やインフラに負担をかける現実があるからです。観光客が集中する地域では、道路の混雑やゴミの増加、騒音の問題が深刻化し、住民生活の質を下げかねないという懸念が常につきまとっています。
こうした事情から、多くの国や都市は「観光客から徴収した資金を都市の維持や環境整備に回す」という仕組みを導入してきました。これは単なる財源確保ではなく、観光地を持続可能な形で守るための取り組みでもあります。
イタリアのローマやフィレンツェ、ベネチアでは宿泊者に市税が課され、ホテルのランクや宿泊日数によって金額が変わります。ベネチアではさらに日帰り客にまで入場料を課す制度が始まり、混雑緩和と収益確保を両立させる試みとして注目されました。バリ島では外国人観光客を対象にした入島税が設けられ、タイでは航空券に観光税を上乗せする形で外国人からも負担を得ています。
世界を見渡せば、観光税や宿泊税は「当たり前の制度」となっているのが現実です。ただし多くの場合は外国人に限らず、国内外を問わず観光客全体に課されるのが一般的です。公平性を重視するためであり、特定の国籍を区別することは国際的な批判につながるからです。
日本で高まる議論と大阪の事情
こうした国際的潮流を背景に、日本でも観光客への負担をどう考えるかという議論が活発になってきました。観光立国を掲げ、インバウンド需要を重要な柱とする方針を取るなかで、「観光で得られる利益と、観光によって生じるコストをどうバランスさせるか」が課題となっています。
特に大阪は、訪日外国人の人気が高い都市の一つです。道頓堀や心斎橋、新世界、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンなどは連日多くの観光客でにぎわい、街には活気があふれています。しかしその反面、混雑やゴミ、深夜の騒音といった住民生活への影響が顕在化してきました。観光客が急増するほど清掃費用や警備費用もかさみ、行政の負担は増していきます。
こうした状況を受けて大阪府は「観光客にも一定の負担を求めるべきだ」という発想に至りました。特に短期滞在の外国人は住民税のような形で地域財源に直接貢献していないため、「観光で恩恵を受けるなら応分の負担を」という考え方が生まれたのです。2025年の大阪・関西万博が開催され、世界から観光客が訪れる中で、制度整備は大きな意味を持つものとされました。
大阪府の試みと見送りの決断
大阪府が打ち出したのは「外国人観光客を対象とした徴収金制度」でした。観光税や宿泊税のように宿泊者全体に課すのではなく、外国人だけを対象にするという点が特徴でした。導入できれば、観光で生じる問題に対処するための財源が得られると期待されました。
しかし、大学教授らを含む有識者会議が行った検討の結果は「制度の導入は困難」というものでした。理由は複数あります。
第一に、国際条約との整合性の問題です。租税条約には国籍を基準に差別的な扱いをしてはならないとする原則があり、外国人観光客だけに限定して負担を課す仕組みは違反にあたる恐れがあると指摘されました。
第二に、実務上の難しさです。空港やホテルで「外国人か日本人か」を判別し、確実に徴収する仕組みを整えるのは非常に煩雑です。実際の現場で混乱を招くリスクが高く、円滑な運用は難しいと判断されました。
第三に、地域や観光業界からの反発です。住民の中には「生活環境を守るために観光客からも負担を」という賛成意見がありましたが、観光産業に従事する事業者からは「客離れにつながる」という強い懸念が示されました。さらに、「外国人だけを狙い撃ちにするのは大阪のイメージを損なう」という批判も広がりました。
こうした要素が重なり、大阪府は最終的に制度の導入を断念しました。もし強行していれば、国からの差し止めや国際社会からの批判を招き、大阪が国際都市としての信頼を失う可能性もあったのです。
観光客に優しい国との対比と日本の課題
一方で、外国人観光客に対して「優しい」と言われる国や地域もあります。それは単に税金が安い、あるいは存在しないというだけでなく、制度全体が観光客に配慮したものになっているからです。
香港は宿泊税も消費税もなく、観光客が負担を感じる場面が少ない都市です。シンガポールは宿泊税はあるものの低額で、免税制度が整備されており、買い物をすれば消費税の払い戻しがスムーズに受けられます。マレーシアは宿泊税こそ存在しますが非常に低く、過去には消費税そのものを廃止した経緯があり、観光客にとって負担が軽い環境です。オーストラリアでは消費税があるものの、観光客は空港で払い戻しを受けられる仕組みが整っており、制度的に優しいと評価されています。
これらの国々に共通するのは「観光客を歓迎する」という明確な姿勢です。税金をゼロにするか、あるいは課したとしても簡単に還付できるようにすることで、観光客が快適に過ごせる環境を作っています。観光を国の基幹産業として位置づける国ほど、制度を整えて外国人を呼び込みやすくしているのです。
大阪の試みは、こうした国際的な動きと比較すると「外国人だけに限定する」という点で異質でした。公平性を欠き、国際的にも受け入れられにくい仕組みだったため、断念に至ったことは必然とも言えます。日本に必要なのは、観光客全体を対象にした公平な仕組みを整え、地域生活と観光振興を両立させることです。宿泊税の拡充や観光施設利用料の上乗せといった制度はその一例であり、観光客と住民の双方にとって持続可能な形を模索することが今後の課題となります。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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