外国人と日本人が共に働きやすい職場づくり――全国に広がる改善のヒント
近年、日本の職場はますます多国籍化しています。製造業や物流、介護、飲食、観光業など、幅広い分野で外国人労働者が活躍し、その存在は欠かせないものとなっています。都市部だけでなく地方都市や郊外でも、外国人スタッフと日本人スタッフが同じ現場で働く光景は当たり前のように見られます。
しかし、異なる言語や文化を持つ人同士が協力して働くとき、意思疎通や作業手順の理解において、しばしばすれ違いが生じます。日本人にとっては暗黙の了解として共有されている作業やマナーが、外国人スタッフには伝わっていない場合があります。逆に、外国人スタッフが当然と思って行動していることが、日本人スタッフにとっては意外であったり、不自然に感じられることもあります。
こうしたすれ違いは、必ずしも言語能力だけが原因ではありません。作業環境の整理や手順の標準化、衛生管理など、職場環境の整備が不十分であれば、日本人同士でも同様の誤解やトラブルが起こり得ます。つまり、多国籍化した職場では、外国人向けに特別な対応を取る前に、まず全員に共通する基本ルールや職場の土台を整えることが不可欠です。
その基盤として、多くの現場で効果を発揮しているのが「5S（整理・整頓・清掃・清潔・しつけ）」です。元々は日本の製造業から広まった職場改善の手法ですが、今ではサービス業や事務職など、業種を問わず有効性が認められています。ある食品加工工場では5S導入後、日本人と外国人の作業ミスが減り、業務効率が大幅に向上した例もあります。
5Sを共通言語にするメリット
5Sの最初の「整理」は、必要なものと不要なものを明確に分け、不要品を処分することです。作業場がすっきりと整えば、誰が見ても必要なものだけが残り、迷いが減ります。外国人スタッフにとっても、この環境は理解しやすく、作業の戸惑いを減らす効果があります。
「整頓」は、必要なものをすぐ取り出せるように配置し、誰でも分かる表示をすることです。ラベルや色分け、写真表示など、視覚的に情報を伝える方法は、言葉の壁を越える強力なツールとなります。物流倉庫などでは、多言語表示やピクトグラムを使った棚や工具置き場の整備で、外国人スタッフの作業効率が向上しました。
「清掃」は、ただ掃除をするだけではなく、作業場や設備を点検しながら清潔を保つことです。これにより、不具合の早期発見や事故防止につながります。食品工場や医療現場のように衛生基準が重要な職場では、日本人と外国人が同じ基準を共有することで品質管理が徹底されます。
「清潔」は、整理・整頓・清掃を標準化し、維持することです。手順やルールを文書化し、誰が作業しても同じ結果を出せるようにします。ここでは、マニュアルを多言語で用意することが効果的です。介護施設では日本語版と英語版の手順書を併用し、外国人スタッフの定着率が上がった事例があります。
最後の「しつけ」は、決めたルールや基準を守る習慣を職場全体に浸透させることです。これは単なる規律の強制ではなく、互いの仕事を尊重し、助け合う文化を育むことにつながります。この段階に到達すれば、日本人と外国人が同じ職場文化を自然に共有できるようになります。
日本人にも外国人にも必要な理由
5Sは、外国人スタッフのためだけの仕組みではありません。むしろ、日本人スタッフにとっても働きやすさや業務効率を高めるために不可欠な基礎です。
5Sが徹底されていない職場では、物の場所が分からず探す時間が増えたり、清掃や整理の基準が人によって異なり摩擦が生じたり、あいまいな習慣が品質や安全の低下を招くことがあります。こうした問題は、日本人同士でも日常的に発生します。
多国籍職場では、文化や言語の違いがある分、これらの課題がより顕著になります。共通の基準がないと誤解や衝突が起こりやすくなりますが、5Sを徹底すれば「こういうときはこうする」という明確な共通認識が生まれ、スムーズな協働が可能になります。
また、5Sは新人教育やOJT（職場内訓練）にも有効です。整理された環境と明確な手順があれば、日本人も外国人も同じスピードで仕事を覚えることができます。ある印刷会社では、新人研修に5Sを組み込み、国籍に関係なく3カ月以内に同レベルの作業スキルを習得できる体制を実現しました。
導入のステップと継続のコツ
5S導入の際、最初から完璧を目指す必要はありません。まずは現状を把握し、改善前と改善後を写真などで「見える化」することが有効です。次に、整理と整頓を重点的に進め、誰でもすぐに必要な物を見つけられる環境を作ります。
ルールや配置は、多言語表示やピクトグラムを活用することで、言語の違いによる理解不足を減らせます。さらに、清掃や点検のチェックリストを作り、日常業務の一部として習慣化します。
継続のためには、定期的な5Sチェックと改善ミーティングが不可欠です。月1回などの頻度で全員が職場を点検し、改善点を共有します。ここで外国人スタッフの意見を積極的に取り入れることで、新たな発想や改善策が生まれます。
小規模事業者や人手不足の現場でも、5Sは低コストで導入可能です。棚のラベル貼りや道具の色分けなど、簡単に始められる方法から取り入れると効果が出やすいでしょう。
そして、全国的な話ではありますが、具体例として、箕面市のあるドラッグストアでは店舗全体で5Sを徹底し、商品陳列や在庫管理、バックヤードの整理まで基準化しました。その結果、探し物の時間や作業ミスが減り、日本人と外国人スタッフの信頼関係が深まりました。今では、国籍を問わず協力し合う雰囲気が職場全体に広がっています。
5Sは単なる改善活動ではなく、全員が同じ方向を向いて働くための「共通言語」です。文化や価値観の違いを越えて協力し合うための土台を作り、日本人と外国人の双方が安心して力を発揮できる環境を整えることが、これからの職場には求められます。整理・整頓・清掃・清潔・しつけ、この5つを日常の中に定着させることが、持続的な成長への第一歩となるのです。
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